すごーくゆっくり、小さくて優しい音で練習して~!!といつも心の中で叫んでいる私ですが、なぜゆっくり小さく、優しい練習が効果的なのかについて科学的に説明してみたいと思います。
「ウェーバーフェヒナーの法則」をご存知でしょうか。エルンスト・ウェ-バーというドイツの心理学者が発見した法則です。
これは、人が錘(おもり)を持ち上げる、という実験で、錘を持ち上げる際、錘の重さの変化を感じ取ることができるのは、何g増えたか、という事ではなく、何倍になったか、といった比に依存している、という事を発見したものです。
これは、聴覚、視覚、味覚、嗅覚、と言ったすべての感覚について言えます。わかりやすい例を、日常的に経験される現象からあげるとすれば、
1. 日が暮れてから灯かりをともすと、明るくなったと感じるのに、昼間同じ灯かりをともしても、大して明るく感じない。
2. 唐辛子が普通の2倍入った2倍カレーと、3倍入った3倍カレーの辛さの違いはわかるのに、12倍カレーと13倍カレーの違いはわからない。
要するに、強い刺激、強い力が加わると、人は感じ取る能力(脳の働き)が鈍る、さらには感じ取れなくなるというわけです。
「分かる」という事は、分けることができる、という事です。私にとっては、野草はどれも同じようにしか見えませんが、私の母は、これらを見分けることができます。また、私にとっては、どれも同じように見える虫でも、昆虫学者の目から見ると、細かく見分けられていると思います。
これが「知識」というもので、知識があるかないか、というのは、細かいところが見分けられるかどうか、という事なのです。 「人が学習をする」というのは、細かいところが分けられるようにすることです。だから、学習する際には、できる限り「りきみ」を取って、「感覚を鋭く」する必要があります。
では、ピアノを演奏する、という場面を考えてみます。弾くことに意識が強く向かい過ぎて、いわゆる力んでいる状態になると、自分の出している音の細部が聴こえない、タッチの違いを感じられないので、それ以上、上達できない(いくら練習しても進歩が見られない)という結果になります。
ゆっくり、小さくやさしく弾くというのは、速くしたり、強く弾くよりも難しいです。ですが、これができるようになると、ピアノを弾くのが本当に楽になることに気づくでしょう。