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ナイフをつきつけられたまま美味しいものを食べても、おいしくないよね

脱力をする、力まない、ニュートラルな状態で弾く、呼吸を意識するなどなど・・・

なぜそれほどまでに、楽に弾くことを目指すのか、理由の一つをお話ししたいと思います。

人間が最大のパフォーマンスをするために必要なことは、「ニュートラル」な状態にいることです。「ニュートラル」とは、力んでいなくて呼吸が楽にできている状態ですが、でも決して「リラックス」ではありません。「リラックス」とは、休んでいること、眠りに落ちるような状態のことを言います。

私がここで説明する「ニュートラル」な状態とは、「体がもっとも動ける状態」のことを言います。

 

例えば、ナイフをつきつけられたとします。そこにはどんな身体感覚があるでしょうか。体が硬くなる、心臓がどきどきする、視野が狭くなる、体が冷たくなるなど想像できますね。このときの体は緊張して力んでいて、呼吸も絶えだえの状態です。

そんなときに、美味しいものを食べたとしたらどんな味でしょう。おそらく、味がしないのではないでしょうか。または美味しくないでしょう。

 

人は力んだり、呼吸がうまくできないような緊張した状態に置かれたとき、感覚が鈍ります。それがどんなにおいしくても、どんなに美しくても、どんなにいい匂いでもわからなくなってしまいます。

 

では、これをピアノを弾くことに置き換えると・・・

例えば、難しいパッセージを弾かなければいけないとなったとき、小さくても緊張が走ります。緊張すると、筋肉を不必要に固くし、呼吸も楽にできず、結果ピアノがうまく弾けません。さらには、上手に弾けないだけでなく、感覚が鈍っているために曲の美しさを十分に感じ取れなくなります。ナイフをつきつけられている状態と同じです。

 

曲の美しさを感じ取れなかったら、弾きたい気持ちが半減するでしょう。美しいと思わなければ、他の人にそれを伝えようと思わないのではないでしょうか。完全にニュートラルな状態で弾くと、曲のいろいろなことに気づいて、それだけで音楽の方向性が見えてきます。しかし力んでいるときにはそれが探せない、気づくことができません。

 

私は最近、「システマ」というロシア武術の本を読んでいますが、その創始者がおもしろいことを言っていました。

「戦場でナイフを持っている敵を見つけたら、そのナイフよりも自分の呼吸に集中しろ」

です。

要するに戦場という緊張のピークに置かれて、かつナイフを持っている人がいて、生死をかけて戦おうとしているようなときでも、ナイフでなくて自分の呼吸に集中せよということを言っています。そうすることで、もっとも動くことができ、戦える、そして生き延びることができるそうです。

この「動くことのできるニュートラルな体」を手に入れるために、呼吸の他にもいろいろなことが書かれていました。ピアノと一緒だなと思いながら読みました。

 

ニュートラルな状態「もっとも体が動ける状態」で弾くというのは、一生かけて学び続けていくことです。私にとってもたやすくできることではなく、本番ではなおのこと難しいです。ですが、ときどきこの状態で弾ける自分に気づきます。そうしたときは本当に気持ちが良くて、ピアノに溶けていくような感覚があります。そしていろんなことが感じられ、もちろん指も楽に動き、大きい音も難なく出すことができます。

 

美味しいお料理は、そのおいしさを十分味わいたいですよね、ピアノも一緒です。だからニュートラルな体の使い方を目指したいのです。この感覚を生徒のみなさんにわかりやすく伝えられるようにするために、私のフェルデンクライスを始めとした学びは続きます。これからお楽しみに!

 

 

 

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