――フェルデンクライスの視点から考える「声かけ」と「環境づくり」

ピアノレッスンの現場にいる中で、最近よく感じることがあります。

それは、「子どもの自主性を尊重したいから、あえて何も言わない」という選択をされるご家庭が、とても増えているということです。

この考え方自体は、とても大切だと思っています。大人の価値観を押しつけず、子どもの気持ちを尊重する姿勢は、簡単なことではありません。

ただ一方で、日々子どもたちと関わる中で、少しだけ気になる場面もあります。

小学生〜中学生前半くらいまでの子どもにとって、「自主性」と「完全に任せること」は、必ずしも同じではない、ということです。

この時期の子どもたちは、やりたくないわけではなくても
・忙しくて忘れてしまう
・何から手をつけたらいいかわからない
・始めるきっかけがつかめない
という状態に、とてもなりやすいのです。

ここで、ひとつよく思うことがあります。

学校の宿題については、
「今日はもう終わった？」
「あとどれくらい残ってる？」
と声をかけるご家庭がほとんどだと思います。

それは、宿題をやらせたいからというより、子どもが困らないように、先を見て支えている感覚に近いのではないでしょうか。

ピアノも、本来はそれととても似ています。「やらせるか・やらせないか」ではなく、「思い出すきっかけを与えるかどうか」。ではないでしょうか。

フェルデンクライスメソッドでは、「人は指示や命令によってではなく、気づきによって変わる」と考えます。

これは、音楽の練習にもそのまま当てはまります。

「練習しなさい」と言われて動くのではなく、
「そういえば明日はピアノの日だったな」
「先生がここを弾いてきてと言っていたな」
そんな気づきが、行動のきっかけになります。

だから必要なのは、強制でも管理でもなく、気づきが生まれやすい環境を整えること。

たとえば
「〇〇くんのピアノ、聴きたいな」
「次のレッスンで先生に何を聴いてもらおうか」
「あ、ピアノの時間になったよ」
そんな一言だけで、ふっとスイッチが入る子もたくさんいます。

これは、やらせているのではありません。子どもが自分で選び、動ける状態を支えている、ということです。

もちろん、すべてのご家庭・すべての子に同じやり方が合うわけではありません。すでに自分から取り組めている場合は、無理に声をかける必要はありません。

大切なのは、
「自主性を尊重する」ことと
「完全に放っておく」ことの間に、たくさんのグラデーションがある、ということ。

当教室では、無理に練習を強いることはしません。でも、音楽を続ける中で芽生える「自信」を育てることを、とても大切にしています。

ご家庭と教室で役割を分けながら、その子に合った環境を一緒につくっていけたらと思っています。