講師のブログ

会話で前提が抜けてしまうのはASDあるある?

「説明したつもりなのに、相手に伝わっていなかった」
「頭の中では映像や流れがはっきりしているのに、会話になると話が飛んでしまう」

こうした感覚に心当たりがある方は、決して少なくないのではないでしょうか。
実はこれは、ASD(自閉スペクトラム症)の特性として、比較的よく見られる現象の一つだと言われています。

頭の中では、すでに共有できている感覚

ASD傾向のある人は、話す内容を映像やストーリーとして頭の中で捉えていることが多くあります。
そのため、自分の中では「ここまで話した」「この前提は共有できている」と感じていても、実際には言葉として十分に外に出ていないことがあります。

本人の脳内では話がすでに完成しているため、その映像や文脈が相手にも自然に伝わっているように感じてしまうのです。
結果として、会話の中で前提となる情報や背景説明、相手がまだ知らないことが抜け落ち、「伝わらない」「急に話が飛んだ」と受け取られてしまうことがあります。

会話で起きやすく、文章では起きにくい理由

この現象が、メールや文章よりも会話で頻発するのには理由があります。
会話中は、今話している内容、次に話すこと、相手の反応、時間や流れなど、複数の情報を同時に処理しています。

ここで関係してくるのがワーキングメモリーです。
ワーキングメモリーは、頭の中の「作業台」のようなものと考えると分かりやすいでしょう。

この作業台がいっぱいになると、「言ったつもり」「共有したつもり」になりやすく、前提説明が抜け落ちやすくなります。そのため、この特徴はASDだけでなく、ADHDの特性とも重なって見られることが多いとされています。

想像力や共感がないわけではありません

ここで大切なのは、「他人の気持ちが分からない」という話ではない、ということです。

多くの定型発達の人は、相手の立場や理解度を、ほとんど無意識で、エネルギーをあまり使わずに感じ取っています。
一方、ASD傾向のある人は、それを意識的に行う必要があり、エネルギーを使うという違いがあります。

これは能力の差ではなく、自動化されているかどうかの違いと捉えると、理解しやすいかもしれません。

対処は「教え込むこと」ではありません

この特性に対して、会話のコツや関わり方を細かく教え込めば解決する、というものではありません。それ以上に重要だと感じているのは、本人が実際に、いろいろな人と話す経験を積める環境に身を置くことです。

固定した人間関係だけでは育ちにくい感覚

安心できる特定の人との関係は、とても大切です。一方で、関係性が固定されすぎると、「この人には説明しなくても通じる」「前提は分かってもらえている」という状態が続きやすくなります。固定した人間関係だけではこの感覚は育ちにくいのです。

人の幅が、伝える力を育てる

年齢や立場の違う人、考え方や知識量の違う人、初対面に近い人。
そうしたさまざまな人と話す経験を重ねていく中で、「これは説明が必要だったな」「この人には最初から話した方がいいな」といった感覚が、少しずつ育っていきます。

これは頭で理解するというよりも、体験の中で自然に身についていく力です。
失敗したり、聞き返されたり、言い直したりする経験そのものが、次の会話につながっていきます。

経験は、更新されていく力になる

会話で前提が抜けてしまうのは脳の情報処理の特性による、とても自然な現象です。そしてそれは体験の積み重ねによって、少しずつ更新されていく部分でもあります。

つい「分かりやすく教えよう」「練習させよう」と思ってしまいがちですが、本当に力になるのは、外の世界での体験そのものです。いわゆる一般的な学校の勉強では育ちません。
いろいろな人と話し、行き違いを経験し、言い直す。その積み重ねが、前提を共有する力や、伝える感覚を少しずつ育てていきます。

安心できる土台を大切にしながら、人との関わりの幅を少しずつ広げていく。
そうした環境そのものが、伝える力を育てていく大きな支えになるのだと思います。


会話や伝え方について考えるきっかけになったYouTubeです。


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