ピアノ練習法

楽器上達の秘訣!ゆっくり優しい音で練習する理由

こんにちは、行田市のさちピアノ教室、さち先生です。

今回のブログは、楽器の練習で行き詰まりを感じている方や、つい力が入って頑張りすぎてしまうという方に、ぜひ読んでいただきたいお話です。以前書いて反響のあった「ゆっくり練習する理由」についての再投稿です。

ウェーバー・フェヒナーの法則

皆さんは、「ウェーバー・フェヒナーの法則」をご存知でしょうか。エルンスト・ウェ-バーというドイツの心理学者が発見した法則です。

これは、人が錘(おもり)を持ち上げるという実験で発見されたものです。錘を持ち上げる際、人は「何g増えたか」という量の変化ではなく、「何倍になったか」という比に依存して重さの変化を感じ取っている、という事を発見しました。
これだけでは意味がわからないので下で説明しますね。

強い刺激は「感じ取る力」を鈍らせる

この法則の根本は、「人間が感じる変化の大きさは、引き算(絶対量)ではなく、割り算(元の量に対する割合)で決まる」という点にあります。

わかりやすい例を、日常的に経験される現象からあげてみます。

  1. 日が暮れてから灯かりをともすと「明るくなった」と感じるのに、昼間同じ灯かりをともしても、大して明るく感じない。

    「元の刺激が弱い(暗い)ほど、わずかな変化に敏感になる」ためです。

    夜(暗い時): 周囲の光の量が「1」だとします。そこに「10」の明るさの灯をともすと、元の状態から10倍に増えるため、脳は「劇的に明るくなった!」と強く感知します。

    昼(明るい時): 周囲の光の量がすでに「1000」あります。そこに同じ「10」の灯をともしても、全体としては1000が1010になっただけで、割合にするとわずか1%の増加にすぎません。そのため、脳は変化をほとんど無視してしまい、明るくなったと感じません。

  2. 唐辛子が普通の2倍入ったカレーと、3倍入ったカレーの辛さの違いはわかるのに、12倍カレーと13倍カレーの違いはわからない。

    「元の刺激が強い(多い)ほど、より大きな差がないと違いに気づけない」ためです。

    2倍と3倍の比較: 元の「2」に対して「1」増えるため、変化の割合は50%増です。この大きな割合の差(1.5倍の強さ)には、人間の舌や脳は簡単に気づくことができます。

    12倍と13倍の比較: 元の「12」に対して同じ「1」が増えても、変化の割合はわずか約8%増にすぎません。ウェーバーの法則では、人間が「違い」を識別できる一定の割合が決まっているため、この程度の小さな割合の差では、脳が「どちらも同じくらい激辛だ」と処理してしまい、違いが分からなくなります。

要するに、強い刺激や強い力が加わると、人は感じ取る能力(脳の働き)が鈍る、さらには感じ取れなくなるというわけです。

学習とは「細かい違い」を見分けられるようになること

「分かる」という事は、「分けることができる」という事です。

例えば、私にとっては遥か遠くに見える山々はどれも大体同じようにしか見えませんが、山が大好きな私の母はこれらを見分けることができます。
また、私にとってはどれも同じように見える蒸気機関車は、鉄道オタクで特にSL推しの息子の目から見ると、非常に細かく分類されています。

これが「知識」というものです。知識があるかないかというのは、細かいところが感じ取れるかどうか、という事なのです。

「人が学習をする」というのは、細かく分けられるようにすることです。だから、学習する際には、無駄な「りきみ」を取って、「感覚を鋭く」する必要があります。

感覚を研ぎ澄ます「優しさ」と「ゆっくり」

では、ピアノを演奏するという場面を考えてみます。
ピアノの練習において「ゆっくり弾くこと」と「優しい音(脱力した美しい音)で弾くこと」には、科学的・身体運動学的に深い結びつきがあります。これらを同時に行う練習の意味と効果は以下の通りです。

1. 「ゆっくり」だから「優しい音(脱力)」を作れる

  • 余計な筋緊張の排除: 速く弾こうとすると、指を動かすことに必死になり腕や肩に無駄な力(力み)が入ります。ゆっくり弾くことで、今どの筋肉がリラックスしているかを脳で観察できます。
  • 打鍵スピードのコントロール: ピアノの優しい音(静かな音)を作るには、鍵盤が下りるスピードをコントロールする必要があります。ゆっくり動作を行うことで、鍵盤の底に到達する直前でブレーキをかけるような繊細な指のコントロール(コントロールされた打鍵)が身につきます。
  • 理想の音色のイメージ化: 物理的に指を動かす前に「どんな優しい音を出したいか」を脳内で先回りしてイメージする時間的余裕が生まれます。

2. 脳の記憶(運動学習)を正しく定着させる

  • 間違った情報の排除: 脳は「弾いた通り」に記憶します。速く弾いて音を外したり、硬い音を出したりすると、脳はその「悪い状態」を自動化してしまいます。
  • ウェーバー・フェヒナーの法則との関係: 人間の脳は、刺激が小さい(優しい音・ゆっくりした動き)ときほど、わずかな感覚の「差」に敏感になります。つまり、小さな音でゆっくり弾いている時の方が、自分の指先の感覚や音色の変化を最も正確にキャッチして修正できるため、上達が圧倒的に速くなります。

3. 打鍵の「深さ」と「響き」を聴き取る耳を育てる

  • 響きの観察: 優しい音でゆっくり弾くと、音が消えていく余韻(減衰音)までしっかり聴くことができます。これにより、次の音をどのタイミングで、どのくらいの強さでつなげれば滑らか(レガート)に聴こえるかを耳で判断する能力が育ちます。
  • 鍵盤の底を感じる: 優しい音を出そうとして「浅い打鍵」になると、音がかすれてしまいます。ゆっくり弾くことで、脱力しながらも鍵盤の底までしっかり指の重みを乗せる(芯のある優しい音)感覚を掴むことができます。

子供の知能や脳の発達に結びつけると・・・


「小さな刺激(静かな環境やかすかな変化)の中で育てることこそが、脳の認知能力や五感を最も発達させる」という重要な教育論に行き着きます。人間の脳は、刺激が少ないときほど、わずかな「差」を敏感にキャッチしようとフル稼働するためです。


1. 脳の「識別力(かしこさ)」を育てる

知能の発達とは、単に知識を詰め込むことではなく、「物事のわずかな違い(変化・規則性・他人の感情など)に気づく力」を高めることです。

  • 過剰な刺激は脳を鈍らせる: カレーの例(12倍と13倍の違いがわからない)と同じで、日常的にテレビ、YouTube、スマホ、派手な音のおもちゃなどの「強い刺激(強い光や音)」にさらされていると、子供の感覚の基準(分母)が大きくなってしまいます。すると、脳は強い刺激にしか反応しなくなり、微細な変化を無視するようになります。感度の低下です。
  • 微細な刺激が脳を育てる: 夜の明かりの例(暗い中での光はよく見える)と同じで、静かでシンプルな環境に置かれた子供は、基準(分母)が小さいため、わずかな刺激(+1の変化)に敏感になります。
    • 葉っぱのこすれる音の違いに気づく(聴覚・自然科学の芽生え)
    • 絵本の微妙な色づかいの違いを見分ける(視覚・芸術的センス)
    • 母親のわずかな表情や声のトーンの変化から感情を読み取る(コミュニケーション能力・EQ)

2. 「数の感覚(算数脳)」の土台になる

ウェーバー・フェヒナーの法則は、人間が生まれ持つ「数の直感的把握」の発達と深く結びついています。

  • 乳幼児は「1個と2個(2倍の差)」の違いは直感でわかりますが、「11個と12個」の違いは数唱(1,2,3…と数えること)を学ばないとわかりません。
  • 知能の発達において、まずは「ゆっくり・少ない量」のなかで、2倍、3倍という「割合(比率)としての数の変化」を体感的にしっかり理解させることが、のちの分数、倍数、確率といった高度な数学的思考(算数脳)の強固な土台になります。

3. 集中力と自己コントロール力(非認知能力)の育成

  • ノイズの少ない環境での集中: 強い光や音が溢れる部屋(分母が大きい環境)では、脳がつねに過剰な情報を処理せねばならず、疲弊して注意散漫になります。
  • 逆に、静かで刺激がコントロールされた環境では、子供は自分の手元の遊び(積み木やパズルなど)の「わずかな手応えの違い」に深く集中できるようになります。この「深く集中する経験」の繰り返しが、前頭葉を発達させ、自己コントロール力や粘り強さを育てます。

教育や子育てにおいては、「与える刺激の量を増やす(強い刺激を足し算する)」のではなく、「元にある刺激(ノイズ)を減らして、わずかな変化を面白がれる高い感度を育てる」ことが、知能の発達において非常に有効です。

スマホは良くないということがどうしても浮き彫りになりますね。わかっていても辞められない中毒性のあるスマホ。ただ、なぜよくないのか理論的にわかっているだけでも違うと思います。


ゆっくり優しく練習する理由について、ウェーバーフェヒナーの法則から考えてみました。

この法則は、私が学んでレッスンに応用している「フェルデンクライス」の核となる考え方でもあります。フェルデンクライスとは、心地よい小さな動きを通じて自分の身体への感覚を鋭くし、無駄な力みを減らして、より自然で楽な動きを学習していく身体教育メソッドです。
上で述べたような性質から、楽器演奏や歌唱の上達だけでなく、子供の動き、そして知能の発達を促すメソッドとしても世界中で活用されています。

ゆっくり、やさしく弾くというのは、速くしたり、強く弾くよりも難しいです。ですが、これができるようになると、一歩進んだところに到達できることに気づきます。一つの悟りとも言える世界です。

日々の練習の際に、ぜひ「ゆっくり、優しい音」を意識してみてくださいね♪

さちピアノ教室
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